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皆さん、何の革が一番お好きですか。エレファント、ガルーシャ、オーストリッチ、クロコダイル…百戦錬磨のCATHEDRALユーザーならこういうお声が聞こえてきそうですが、私は鹿革が一番好きです。

あのモチッとした優しい質感。軽くて吸湿性があって、最も日常使いに向いている。用の美1とはよく云ったもので、使う毎に道具として自分の生活様式に馴染んでくるあの感じがえも言われぬ高揚感を静かに日常に添えてくれるのである。

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今回は素敵で力強い作品が北の大地より届きました。北の国から来た鹿ということはそう、エゾシカです。

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エゾシカは通常のニホンジカと比べて体軀が大きいのだそう(ベルクマンの法則2)。現在エゾシカは急激に個体数を増やしており、年間10万頭以上が駆除されているのだが、その多くは活用されることなく処分されている。

amarillo3はそんな人間の為に犠牲となった命を無駄にせず、新たな作品として生まれ変わらせることで活用していきたいとの想いからエゾシカ革を積極的に使用した作品を生み出している。

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野生動物ゆえの傷や穴の個体差があり、一枚一枚色合いや風合いが異なるのが醍醐味
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日常に馴染む、人懐っこい丸みを帯びたフォルム。しかしそこには力強ささえ感じる。狩猟から解体、鞣し、生産までを一貫して北海道内で行っている。鞣しはフルタンニン鞣しに拘っており、制作もフルハンドという徹底ぶり。

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最大の特徴は革の切り替えの部分とフリンジに施されている「編み」の美しさであろう。この編みがバッグの骨格となり、柔らかいのにしっかりと自立する。良い鞄かどうか判断する上で、自立するか否かという観点は実用を考えると重要である。

大きいフリンジはただのデザインではない。金具やボタンを一切使わず、タッセルの自重によって蓋が閉まる仕組みで、荷物が多い時は蓋をせずバケツバッグとしても成立するデザインとなっている。

円筒形のバケツバッグで、中身は内ポケット無しのシンプルな構造。高さも30cmあるので、500mLのペットボトルも無理なく持ち運べる。革の内側も非常に綺麗に仕上げられており、スエードの毛足が内容物に付着することはなかろう。

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使用する革は極厚の2.5mm。これだけ分厚い革は体の大きい雄鹿からしか採れないのだが、駆除される対象の殆どが雌鹿であるため、非常に入手困難とのこと。鹿革の特筆すべきはその柔らかさだけでなく、耐久性や吸水性である。鹿革は湿度を自動調節してくれる。つまりは水に濡れてもガチガチにならずに、乾かせば何事もなかったように元通りというわけだ。

持ち手には芯地を入れており、伸びやすいという鹿革の弱点を克服している。また、持ち手は通常のモデルよりもやや長めに作っていただいており、肩掛けをしやすいようにしている。こちらも地味なことではあるが、折から両手が塞がるシチュエーションに対応できる鞄というものは道具としての評価が高く、永い使用に繋がる。

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ケア用のレザークリームが付属します。

北海道という雄大な土地で、自然の時間軸で手仕事を営む。生物としての人間が生活を豊かにするために紡いできた「道具」というものの素晴らしさを実感できる作品となっています。たくさん使って、メンテナンスを繰り返して、その中で道具としての美しさが磨かれてゆく。末長く使うことのできる鞄です。

文責 K


  1. 柳宗悦(やなぎむねよし)が民芸運動の中で提唱した概念。人が使ってこそ美しい、実用性の中にある美しさを指す。機能美が物そのものの機能性や構造美を指すのに対し、用の美はその道具を使う人間の営みや暮らしの中にこそ美しさを見出す。 ↩︎
  2. 同じ種類の恒温動物では、寒い地域に生息する方が体が大きく、温暖な地域に生息する方が体が小さいという法則。 ↩︎
  3. amarillo(アマリージョ)-2012年、タカハシアイリが立ち上げたハンドメイドレザーブランド。北海道で社会問題となっているエゾシカの増加と狩猟後の廃棄問題に向き合い、人間のために犠牲となった命を無駄にせず活かしたいとの想いから、2015年頃より積極的にエゾシカ革を用いた作品づくりを続けています。革の状態に応じて太さや厚みを調整しながらハサミで切り出す革紐を用いた「BRAIDING(編み)」と「LACING(かがり)」を特徴とする独自のスタイルで、すべてをハンドメイドしています。
    また、ブランドとして大切にしているのは、「装飾として」ではなく構造を支える「縫製として」の「編み」と「かがり」。さらに金具を極力使わず、長く愛用できる作品をつくることです。やがて土に還る、持続可能なものづくりを目指しています。 ↩︎