日本出身 YORIO TSUJI と 台湾出身 SHOW CHANGにQ&A
“Chaotic Elegance ― 可塑と余白の潤い ―”
日本出身 YORIO TSUJI と 台湾出身 SHOW CHANGにQ&Aをぶつけた、今まで多くを語ってこなかった彼らですがお話しすることができました。
質問 1
初めて知るお客様もおられるとおもうので、お二人の自己紹介をお願いいたします。ご出身・経歴、過去の皮革製品のお仕事について、それからご趣味なんかもお教えいただけますと幸いです。
yorioshow は、私 Yorio Tsuji と、公私のパートナーでもある Show Chang による、デザイナー兼アルティザンデュオから生まれたレザープロダクトブランドです。
私は神奈川県横浜市出身、彼女は台湾・高雄市の出身です。
互いにイタリアへ渡る以前、母国で皮革産業に携わった経験はなく、それぞれ異なる時間を過ごしてきました。
私は幼少期からスポーツに親しみ、海外志向が強かったこともあり、スポーツ用品などを通してレザー製品が身近にある環境で育ちました。また、手先の器用な母の影響もあり、次第に「手に職をつけ、ものづくりを生業にしたい」と考えるようになりました。
一方で 、彼女は、日本文化が好きな姉の影響から幼少期より日本語を学び続けて、渡欧前まで台湾では日本語教師として働いていました。ファッションへの関心も高く、彼女もまた「手に職をつけたい」という希望を抱き、やがてバッグデザイナーを志すようになったことが、イタリアへ渡るきっかけとなりました。
そうした母国での異なる時間を経て、私たちはイタリア・フィレンツェで出会いました。
私がイタリアに到着した時には、彼女はすでに現地の工房兼ショップで働きながら 2 年以上生活しており、私がたまたま彼女の働く店を訪れたことが最初のきっかけでした。
その後、工房探しに苦労していた私のために、彼女がアトリエのオーナーや関係者に声をかけてくれたことで、フィレンツェ郊外の工房に入ることができ、アルティザンとしての私のキャリアはそこから始まりました。
あの時のサポートがなければ、今の自分もブランドも作品も存在していないと思っています。そういう意味で、彼女は私の人生の恩人です。
数年間のフィレンツェでの修行を経て、職人として、そして表現者としてさらに高みを目指すため、二人でフランス・パリへ渡る決断をしました。幸運にも同じアトリエに迎え入れていただき、レザーという極めて閉鎖的な業界で、世界的にも最難関と言われるフランスの環境の中で、アトリエ初のアジア人として経験を積むことができたことには、今も深い感謝があります。
同じ師のもとでフランス伝統の技術と感性を学べたことは、私たちにとって大きな財産であり、現在の yorioshow の活動を支える確固たる信念となっています。それはお守りのような存在であると同時に、常に背負い続けるべき重圧でもあり、その責任は人一倍強く感じています。
そうした日々の中での息抜きとして、旅行や散歩、食事やお酒、音楽や映画、美術館での展示鑑賞、スポーツ観戦などが共通の趣味です。好奇心が強く、楽しいことや面白いものは自然と共有していく性格なので、共通の友人同士の交流も含め、
人と集う時間をとても大切にしています。そうした日常の積み重ねが、yorioshow のブランド像やものづくりにも細やかに反映されていると感じています。
私たちはよく誤解されますが、二人ともアカデミックなデザイン教育を受けてきたわけではなく、デザイナーとしても職人としても、現場主義で研鑽を積んできた、いわば土着型のクリエイターユニットです。
明確な「~出身」という肩書きを持たないことで、帰国後独立して間もない頃は苦労もありましたが、今振り返ると、そのルーツがあったからこそ、既存の型に縛られない自由なスタイルでものづくりができているとも感じています。相応の覚悟は必要ですが、若い頃のこうした選択も悪くはなかったと思っています。
2019 年の帰国後にブランドを立ち上げ、今年で 6 周年を迎えました。
多くの方々に支えられながら活動を続けてこれたことに、日々感謝しています。レザーの表現領域を拡張することを目指し、情熱の赴くままにものづくりへ向き合ってきた結果、少しずつ共感者や協力者も増え、現在ではファッション・プロダクト・アートを横断する立ち位置まで歩みを進めることができました。
まだ道半ばではありますが、他では再現できない領域に近づきつつある感覚もあります。お客様や関係者の期待を真伨に受け止めながら、己のルーツへの責任を背負い、長い年月をかけて取り組み続けていきたい̶̶それが yorioshow というブランドであり、プロジェクトです。
yorioshow では、本質的なモノ・コトを求める方々に対して、誠実に向き合い、丁寧に届け続けることを、これからも一貫して大切にしていきたいと考えています。
質問 2.
イタリアとパリでので修行経験を経て、お二人でブランド始められた経緯・馴れ初めについてお聞かせください。
二人でブランドを始めるに至った経緯は、出会いと同じくらい、ある種の葛藤の時間から始まっています。
パリで暮らしていた当時、私たちは日々とても刺激的な環境に身を置いていました。職人として理想郷とも言える場所で、高い基準の仕事に触れながら、技術も意識も想像以上のスピードで引き上げられていく。その一方で、20 代半ばだった自分たちは、次第にある問いから逃げられなくなっていきました。
それは、自分たちのアイデンティティとは何なのか、という問いです。
パリを中心とする視座で世界を見渡したとき、私たちは極めてフレンチで上質なものづくりを身につけつつありました。
けれど、西洋人に「近づく」ことはできても、「なる」ことは決してできない。その事実を強く自覚したとき、レザープロダクトにおけるアジアらしさとは一体何なのか、という疑問が浮かび上がりました。
自己表現の段階に差し掛かるほどに、今度は自分たちのルーツを掘り下げる必要に迫られます。しかし、そもそも自分たちは母国を正しく認識できているのか、アジアという場所をどれだけ理解しているのか。正直に言えば、当時はお互いの母国や、レザー業界を取り巻く閉鎖的な環境に対して、そこまでポジティブな感情を持ててはいませんでした。アジアに戻る、という選択肢は、その時点ではまったく現実的ではなかったと思います。
そんな葛藤の只中で迎えたパリ・ファッションウィーク期間中、街全体から感じた日本ブランドの存在感に、強い衝撃を受けました。
COMME des GARÇONS、sacai、UNDERCOVER など、日本を代表するブランドがパリという舞台で堂々と評価されている姿を目の当たりにし、これがアジア人が創造する「世界基準」なのだと、逆輸入的に突きつけられた感覚がありました。
私自身、イタリアではビスポークの現場にいたこともあり、当時は今ほどモードの世界に目を向けていませんでした。仕事柄、ヨーロッパのメゾンが身近な存在だったこともあり、日本のドメスティックブランドに意識を向ける機会は多くなかった
のが正直なところです。しかし、自分のルーツを探るようにその歴史を辿っていくうちに、私たちが本当に表現したいのは、こういうことなのではないか、と考えるようになりました。
そして、日本を含むアジアのファッション史の中に、未だかつて存在し得なかった「アジア発のレザーブランド」を生み出すためのヒントが隠されているのではないか̶̶そう感じるようになりました。
前例のない挑戦のため、そのリスクも含めて慎重に彼女との数えきれない意見交換を重ねた末、その探求心の赴くままに、アジアへ戻り、世界基準のブランドを自分たちの手でつくる、という決断に至りました。
ブランド名である yorioshow は、私たち自身の名前に由来しています。
パリの工房では、毎朝オーナーが「Yorio! Show!」と二人の名前を連ねて呼び、その声に反応してオーナーの愛犬も含め全員が集まり、その日の仕事を確認するのが日常でした。当時は何気ない光景でしたが、いざ離れてみると、そのアトリエでの日々は、私たちにとってかけがえのない青春の記憶だったのだと気づきました。
名前の響きが海外でもキャッチーであること、ウィットに富んでいることも理由の一つですが、それ以上に、自分たちの原点を思い出させてくれる名前であること、そして初のアジア人として迎え入れてくれた伝統ある工房と偉大な師匠、さらにはその文化を育み続けてきたフランス、ひいてはヨーロッパへの敬意と感謝を込めて、この名を選びました。
yorioshow という名前は、私たちに創造の自由を与えてくれると同時に、それに伴う大きな責任を常に思い出させてくれる存在でもあります。
質問 3.
バックグラウンドについて、お聞かせください。どういったデザイナー・職人に初め影響を受けたのでしょうか、そしてまたインスピレーションを得るために普段どのようにしておられますか。
自分たちのバックグラウンドを振り返ると、特定の誰か一人から強く影響を受けた、というよりも、これまでの人生の中で出会ってきた人や、実際に自分の目で見てきたものの積み重ねによって、今の感覚が形成されているように思います。
書籍や展覧会、映画や音楽といった文化的な体験も含め、分野を限定せずにアンテナを張りながら、五感を通して日々多くの要素を複合的に吸収しています。
そうした中でも、強烈に記憶に残っている体験の一つが、パリで携わらせていただいた、故カール・ラガーフェルド氏による C 社のラストコレクションの仕事です。
彼が描いたラフなデッサンから放たれる、言葉にしがたいエネルギーのようなもの、そしてそれに応えるように、精鋭のクリエイターたちが一丸となってコレクションを完成させていく、その現場の熱量と姿勢には大きな衝撃を受けました。
「これがメゾンたる所以なのだ」と、強く実感させられた瞬間でもありましたし、稀代のデザイナーのラストコレクションに関われたことは、本当に貴重な経験だったと思っています。
また日本に目を向けると、SS26 C3 コレクションよりリリースした <Griffa シリーズ>で、ジュエリーパーツの制作を担当していただいたブランド G との出会いも、大きな影響を与えてくれました。
ダブルネームではないためブランド名は伏せさせていただきますが、彼らが持つものづくりへの熱量、美しさに対する貪欲さには、驚きと学びが非常に多かったです。
素晴らしいプロダクトアウトをしていただき、まだリリース直後にもかかわらず、これは yorioshow というブランドが一段、あるいは何段か飛び越えて着地することができた特別なプロジェクトだったと感じています。
関係者やお客様からの評判も非常に良く、Griffa シリーズは、今後ブランドのアイコンとして大きな役割を果たしてくれると確信しています。
さらに最近では、フレグランスブランド AHARE とのコラボレーションも、非常に印象深い経験でした。
AHARE が生み出すクリエイティブには、毎回感動を覚えますし、あれほどまでに凄みと期待感を感じさせてくれるインディペンデントなブランドは、世界を見渡しても決して多くないと思います。
その世界観や姿勢から受ける刺激はとても上質で、協業を通して学ばせてもらうことが本当に多かったです。
これらの協業プロダクトはいずれも、本質的なものづくりとして自信を持ってお客様に届けられるものになりました。
これはあくまで僕らが個人的に感じていることですが、先に挙げた二つのブランドには共通して、どこか Chaotic Eleganceさを感じています。
そうした感覚を、お互いのフィロソフィーを交えてプロダクトの中に落とし込めたことは、作り手として純粋な喜びでもあり、ある種の幸せを感じた瞬間でもありました。
こうして振り返ると、周囲にいるものづくりやクリエイティブに関わる人々から受けている影響は、本当に大きいと思います。
魅力的で面白い人たちが身近にいる環境はとても刺激的ですし、今の自分たちは恵まれた環境に身を置いていると感じています。
そしてある意味で、人は環境に大きく依存する存在だと思っています。
だからこそ、ヨーロッパで生活していた頃から変わらず、自分たちを取り巻く「環境をどうつくるか」という点には、常に意識を向け続けています。
そうした環境の積み重ねそのものが、今の yorioshow の背景であり、これからの表現を形づくっていく土台なのだと思います。
質問 4.
yorioshowは独特の空気感を持っている様におもいます、ブランドコンセプトについて、お聞かせください。
yorioshow では、“Chaotic Elegance ― 可塑と余白の潤い ―” というコンセプトを掲げて、ものづくりを行っています。
ブランドコンセプトとしては、かなり抽象的な部類に入ると思いますが、これは私たち自身が抽象表現を好んでいることに起因しています。
一般的なブランドが発信する、分かりやすく整理されたコンセプトとは、ある意味で真逆の立ち位置かもしれません。
ものごとが細分化され、即時的に理解できる情報や、均一化された価値観が溢れている現代に対して、これは私たちなりのアンチテーゼでもあります。
効率的で、考えなくても手に取れるものほど消費されやすい時代だからこそ、あえてその流れに乗らない選択をしています。
私たちは「余白」があるものを好みます。
すぐに答えが出ないこと、解釈が一つに定まらないこと、その曖昧さの中で余韻を味わいながら、日常の中に小さな豊かさや幸福を見出す感覚を大切にしています。
本質や美しさというものは、単一化や簡略化の先には存在し得ない、と個人的には考えています。
分かりやすいものほど、その場では理解されやすい反面、手を離れた瞬間に記憶から薄れていくのも早い。だからこそ少し乱暴な言い方をすると、「所有者に思考を促すもの」をつくりたい。
それが、この時代において私たちがものづくりをする意味なのではないか、と考えています。
そうした思想を象徴する言葉として掲げているのが、“Chaotic Elegance” です。
個人的に、長く時代を超えて愛され続けるモノやコトには、どこか共通して説明しきれない抽象性が宿っているように感じています。
言葉にはしづらいけれど、なぜか良い。
少なくとも、私たちが美学を感じてきた作品や物事には、そうしたカオティックでありながらエレガントな佇まいがありました。
サブコンセプトである 「可塑と余白の潤い」 は、その言葉の通り、革という有機的な素材が本来持っている可塑性、そしてそこから生まれる意識的・空間的な余白による美意識を指しています。
あくまでも抽象的な言葉ではありますが、それを yorioshow のプロダクトを通して、本質的に体現していると考えています。
もちろん、抽象表現にはデメリットもあります。
断言しづらく、解釈の自由度が高い分、イメージが確立しにくい。
ですが、今後何十年とブランドを続けていくことを考えた時に、簡単に答え合わせができてしまうコンセプトは、最初から設定したくありませんでした。
これから積み重なっていくコレクションやヴィジュアル、言葉の断片、その軌跡を辿った先で、
「確かに yorioshow は Chaotic Elegance だよね」と、お客様や第三者の方々が自然と口にしてくださる。そんな状態が理想だと思っています。
私たちは、今すぐの正解を求めていません。
だからこそ、今やっていることが正解なのか、不正解なのかも、誰にも分からない。
答え合わせは、極端な話、私たちの没後でも十分だと思っています。
そのためにも、抽象表現にこだわりながら、一貫性をもってつくり続けることを何より大切にしています。矛盾を孕んだ、極めて抽象的な在り方ですが、その分だけ解釈の余白は大きい。
今の時代に、こうしたブランドやものづくりの形があってもいいのではないか、そんな感覚も正直あります。
言い換えるなら、“Chaotic Elegance” なものが、もっとこの世界に増えていってほしいという、個人的な願望でもあります。
そのためには、きちんと価値が見出されなければいけない。だからこそ、私達の人生をかけて、ゆっくりと丁寧に、世界の人々へ伝えていきたいと思っています。
こうしたコンセプトのもと、毎シーズン制作しているのが〈CUIRISM / キュイズム〉 というコレクションです。フランス語の CUIR(革) と、英語の ISM(哲学) を掛け合わせた造語で、文字通り「革の哲学」を意味しています。
CUIRISM を通して、レザーの表現領域や可能性を拡張していくことを目指しながら、毎シーズンそこに印象的なテーマや抽象的なキーワードを差し込み、ブランドの世界観に連続性を持たせています。
言うなれば、この CUIRISM というコレクションは、レザープロダクトを介したオムニバス作品のような存在です。
プロダクトそのものはもちろん、こうした背景にも時折思いを巡らせながら、yorioshow というブランドの在り方そのものを楽しんでいただけたら、これ以上嬉しいことはありません。
質問 5.
独自の姿には独自のテクニックが存在するとおもいます。お話しできる範囲で制作についてお聞かせください。どういったレザーを使用し、そのレザーを選定した理由を教えてください、制作において一貫しこだわりを持っているディティール・テクニックを教えてください。
作品制作において、主に使用しているのはフランス産タンナーによる最高品質の皮革です。
理由はとてもシンプルで、それらの革でなければ到達できない美しさの領域があると感じているからです。もちろん、こだわっているのはレザーだけではありません。
糸、針、接着剤、コバインクに至るまで、プロダクトを仕立てるために必要なすべての素材や道具を慎重に選定しています。
それぞれが持つ性質や個性を理解したうえで、最適な組み合わせを考え、制作に臨んでいます。
私達自身が常に意識しているのは、自分達の技術と経験を通して、素材が内包している魅力を汲み取り、その素材にとって最も美しい姿へと昇華させてあげることです。
そのために、素材の特性を最大限に活かしたパターンやカッティングを考え、縫製方法を吟味しながら、プロダクト全体としてのバランスが最も美しく成立するレザーの厚みやフォルム構成を、何度も検証し続けています。
このアプローチは、個人的には料理人の仕事に近い感覚だと思っています。
最高級の素材を、いかにしてさらに美しく引き立てるか。そのための技術と判断の積み重ねです。
制作過程では、フランス式手縫い技法であるクージュ・セリエを用いることも多くあります。
手縫いは高度な技術と膨大な時間を要する作業ですが、究極的な美しさを追求する上で、どうしても外すことのできない工程でもあります。
だからこそ、作り手としては、その価値をきちんと理解していただきたいという思いも正直あります。
一方で、常に意識しているのは、手縫いという技術が目的化しないことです。
最終的に向き合うのは技法そのものではなく、プロダクトを手に取ってくださるお客様です。
そのため、パーツや工程によっては、ミシンによるマシンメイドを選択することも少なくありません。
素材やパターン、縫製箇所によっては、ミシンを使うことが最適解となる場合も多く、そこは柔軟かつ冷静に判断しています。
yorioshow のものづくりの根底には、「技術の向かう先にデザインがある」という考え方があります。
一つのプロダクトの中で、デザインと技術が無理なく共存していくためには、こうした選択の積み重ねが不可欠だと考えています。
これは意識的な姿勢であり、言葉では伝わりにくい部分でもありますが、私たちにとっては非常に重要な軸です。
そしてもう一つ大切にしているのは、こうした感覚の精度を高め続けることです。
制作の場だけで完結するのではなく、日々の何気ない生活の中で、感覚を養い、研ぎ澄ましていくこと。それもまた、私達にとっては欠かすことのできないデザインプロセスの一部だと捉えています。
作品づくりとは、技術や素材の話に留まらず、日常の中でどれだけ誠実に感覚と向き合えているか、その積み重ねの結果なのだと思っています。
質問 6.
お二人で一つのブランドのアイテムを制作していくにあたり、どのように作業を分担しているのでしょうか。お二人の得意なことはやはりちがうとおもいますので。
二人で一つのブランドのアイテムを制作するうえで、明確な役割分担を厳密に決めているわけではありません。
パリで同じアトリエに入り、毎日同じ環境で修行してきた経験から、基本的には互いに同等の技術と判断基準を共有しており、それぞれがデザインから制作まで、すべての工程を一人で完結させることができます。
この点は、yorioshow にとって大きな強みの一つだと思っています。
特定の役割に縛られないからこそ、性別や固定的なイメージに寄らない、ユニセックスなブランドとしての立ち位置を自然と確立できているのだと感じています。
興味深いのは、私がデザインしたものは比較的男性の方に、彼女が手掛けたものは女性の方に手に取っていただくことが多いという傾向があることです。
私のものにはどこかエッジーなディテールが表れやすく、彼女のものには有機的で柔らかなニュアンスが滲む。
そうした微細な違いを、お客様が無意識のうちに感じ取ってくださっていることは、作り手としてとても嬉しいことです。一方で、その印象が完全に逆転するケースも少なくありません。
yorioshow においては、その境界は極めてボーダーレスで、意図的に線を引くこともしていません。
むしろ、こうした各自が独立した制作スタイルを持っているからこそ、現代の多様な価値観にも自然にフィットする、自由度の高いユニセックスなプロダクトが生まれているのだと思います。
もちろん、バッグ制作など規模や工程の大きなものに関しては、二人で同時に取り組む場面もあります。
ただ前提として、デザインから仕上げまでの 0 から 100 の工程を、それぞれが一貫して担えるという体制は、ブランドとして見た時に非常に大きなアドバンテージだと捉えています。
互いに干渉しすぎず、けれど同じ美意識と判断軸を共有している。
そのバランスが、yorioshowというブランドのあり方そのものを形づくっているのかもしれません。
質問 7.
レザーアイテムのカラーリングに魅力を感じます、色彩構成はどのように決めているのでしょうか。
レザーアイテムのカラーリングについては、基本的に彼女が担当しています。
色彩感覚に関しては、私よりもはるかに優れていて、ブランドとしてもその感覚には絶大な信頼を置いています。
私自身が直感的に色を選ぶシーンもありますが、その場合でも必ず一度は彼女に確認をお願いするほどです。
パリで修行していた頃を振り返ると、お互いに「ここが大きく開花した」と感じる部分がいくつかあるのですが、彼女にとっては色彩感覚の成熟が、その一つであったと思います。
日々高いレベルのものづくりに囲まれながら、自分の感覚を磨き続けた結果として、色に対する判断力や表現の幅が一気に広がっていった印象があります。
昨年の C1 コレクション以降、yorioshow では意図的に色を排した、無彩色を基調とするプロダクトも多く展開してきました。
そうしたアプローチの変化があったからこそ、逆説的に、これまで提案してきたカラーリングの記憶がより強く印象に残っているのかもしれません。
今でも、yorioshow の色使いに魅力を感じてくださるお客様が多くいらっしゃることを、とてもありがたく感じています。
人の記憶に残るカラーリングを提案できるというのは、決して簡単なことではありません。
それができているという事実が、彼女の感性の強さを物語っていると思いますし、同時にそれは、yorioshow のアイデンティティを形づくる重要な要素の一つでもあります。
その背景には、台湾という温暖で色彩豊かな文化圏で育ち、イタリア、フランス、そして日本へと、言語や文化の壁を越えて生活してきた彼女自身の実体験があると感じています。
異なる土地や文化の中で培われた感覚が、無意識のうちに色として滲み出ている。
その積み重ねが、今の yorioshow らしいカラーリングを生み出しているのだと思います。
質問 8.
アイテム1つ1つに凛とした佇まいを感じます。コバの美しさを際立たせるいるような印象、曲線とエッジなどなど、設計、縫製、仕上げにはどのようなこだわりがございますか。
アイテム一つひとつの佇まいについては、意識的にとても重きを置いて設計しています。
基本的な制作姿勢としては、ヨーロッパで培ってきた技術やノウハウを最大限に活かし、最高品質の素材をいかに美しく仕立て上げるかという点が、今も変わらず制作プロセスの根幹にあります。
特にコバに対する美意識は、フランスでの経験が大きく影響しています。
フランスの職人たちは、コバを単なる仕上げとしてではなく、デザインそのものを支える重要な要素として捉えていました。
シンプルな構造であるほど、ステッチやコバといった細部が、そのプロダクトの美しさを決定づける。
そうした考え方は、今も強く私達の中に根付いています。
レザープロダクトは、日常生活の中で人が持ち運ぶ物の中でも、比較的大きな「物質」として存在感を放つアイテムです。
だからこそ、私たちが考えるデザインとは、細部のディテールへの徹底したこだわりと同時に、30 メートル離れた地点からでも認識できるような「フォルム」そのものへの強い美意識を含んでいます。
レザーは有機的な素材であり、木材や金属といった硬質素材に比べると、フォルムの持つ余白が非常に大きい。
使用環境や時間の経過によって形が変化していく可能性を前提にしたうえで、設計を行う必要があると考えています。
そのため、素材の選定から、全体およびパーツごとの適切な厚みの設定、裁断方法、縫製箇所や縫製の仕方に至るまで、非常に多くの要素に思慮を巡らせています。
デザインの際には、全体を俯瞰するマクロな視点と、細部を突き詰めるミクロな視点を行き来しながら、理想的なフォルムを探っていきます。
その積み重ねが、結果として「ありそうでなかった佇まい」につながっているのだと思います。
一方で、東京に活動拠点を移してから 6 年が経ち、少しずつ西洋の伝統的なセオリーから逸脱したデザインプロセスにも取り組むようになりました。
そのような過程で、自然と脱構築的な意識やプロダクトが生まれ始めていることも実感しています。
個人的に、テーラーリングを背景に持ちながら、そこから脱構築を試みてきたデザイナーたちの表現には強く惹かれます。
身体に染み付いた高度な技術と審美眼があるからこそ成立する、カオスでありながら美しく、儚さと力強さを併せ持つものづくり。そうした姿勢には、常に大きな刺激を受けています。
“Chaotic Elegance” という言葉を聞いたときに、自然と yorioshow のプロダクトやブランド像が想起される。
未来生きる人々にそう認識してもらえるように、これまで育んできた世界観の中に、さらに多くの価値を宿していけたらと思っています。
そのためにも、デザイン設計、縫製、フォルム、そして佇まいや空間認知、物質と心象心理の関係性等、意識的そして感覚的なすべての事象に対して、これからも探求を続けていきます。
丁寧にブランドやものづくりについて伝えて頂いた。
これがyorioshowだ。
文字で伝えるということを大切にしてらっしゃるのがわかるQ&Aでした。
作り手という人間、ブランドをやるという事を改めて理解した。
こういう事なんだ、分かりやすい動画だけじゃない。と勉強になった…
お忙しい中お時間を作って頂きありがとうございました。
イベントにはお二人とも在店していただくので、是非お二人に会いにきてくだい。
CATHEDRAL 谷 勇紀
今回のイベントでは即売分とパーソナルオーダー品がございます。即売分はイベント初日までにONLINEにページにUPされます。
BAG及びクロコダイル、リザードの商品はCATHEDRAL別注以外は、パーソナルオーダー対応となります。クロコ、リザードのカラーに加えライニングのシープ、フレンチゴートに関してもかなりの色数がございます。遠方のお客様でご要望がございましたら、下記の問い合わせ先よりご連絡ください。インスタのビデオチャットをつないでのご相談もOKです。よりおさんとショーさんとお話ししながらお選びください。
オンライン掲載モデルにつきましては、詳細な写真を複数掲載いたしますが、ご不明な点がございましたら、なんなりとお申し付けください。
出来る限り触って選んで頂きたいという思いがあります。
長きにわたり愛用できる特別なお品物です、是非店頭で触って頂きたいと思いもございます。お時間を作って頂き、是非店頭においでください。
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